刃に刻まれた歴史

ここに記されているのは個人的な仲間内でブレイド・オブ・アルカナをプレイする際に知っておいて欲しい、歴史的(?)事件と変化です。

また、この歴史は個人的なセッションによるもので、オフィシャルな世界とは関係のないことです(そうなると考えて、制作側は歴史を進めないのでしょうが)。

末尾に歴史として表面には現れていない「その他の重要事実」も記載。


西方暦紀元1060年

9月7日

傭兵伯死去

エステルランド王国、王都フェルゲンにおいて行われた舞踏会のさいに、傭兵伯として名高いゲオルグ・シュローダー伯が失言のため失脚、剣を抜いたところを討ち取られるという事件があった。

手を下した者達は国外に逃れたという。その理由は不明である。

11月3日

バンウッド公国鳴動

バンウッド公国はエクセター王国において、最も北にある領土である。

以下の内容は外部にはほとんど知られていないものである。

その国内には隣接するエステルランド王国ヴィンス公国領からの魔手が伸びていた。

風雷騎士団の団長、そして宰相が殺戮者化させられていたのだ。

国外に逃亡していた公女とその近侍が彼らと戦い、国を取り返すこととなる。

公女は教会から戻ったとされ、近侍たちも元の地位に帰った。

ここでは、それ以上の内容は語るまい──


西方暦紀元1061年

1月14日

エクセター王国馬上槍試合

エクセター王国の王都にて、有力貴族のお抱え騎士達が馬上槍試合を行った。

この際、決勝戦で王の首を狙う者が現れたが、討ち取られる。

この功績と試合の結果から、一部の騎士に予定以上の爵位が与えられた。

2月27日

バンウッド公国成婚式及び戴冠式

バンウッド公国にて、先日爵位を得たリオンバルト家の長男が唯一の公女と結婚し、新たに公王(公爵)の地位を受けることとなった。

この成婚・戴冠は以前から考えられていたもので、王都で爵位を授かってきたのもこのために必要な段取りを踏んだものとされており、国王もそれを承知の上で少しでも高い爵位を与えた者と考えられる。

この成婚式・戴冠式は予定していた日程から一日遅れて行われるが、その詳細は伏せられており、一般には知られていない。

2月28日

ツァイトラー男爵、謎の死去

シーダーハイム領主、ゴッタード・ツァイトラー男爵が謎の死を遂げた。

長い行列を連れて街に入った際に、ひとりの青年がツァイトラー男爵の乗る馬車に何らかの方法で乗り込み、男爵を殺害したものと考えられている。

しかし、不思議なことに、男爵は馬車から数十メートル離れた路上で、墜落死としか思えない姿を晒していたことである。

犯人と思われる青年の供述も要領を得ないものであった。

11月24日

魔神大戦

あまりに大きな大事件。

ヴィンス公国のフェリックス・クリューガー公がエクセター王国に進軍した。

一種の危険因子であった彼の監視として、エステルランド神聖騎士団団長のノエル・フランシス・エルマーが同行することとなった。

しかし、彼女は帰らぬ人となる。

フェリックス・クリューガーはバンウッド公国にある程度入ったところでノエルを殺害、太古の昔にその地に封印されていた魔神と無数のその分身を呼び覚ましたのだ。

その魔神はバンウッド公国の軍隊によって倒されるも(注)、その分身たちとフェリックスはエステルランドへと逆行して攻め入った。

その目的・動機は要として知れない。

しかし、彼はその途上で追走してきたバンウッドの精鋭部隊と神がかりな速さで南下してきたリザベート・バーマイスター伯によって倒された。

その後、エステルランドとエクセターは協定を結び、ヴィンス公国領を共同領としてお互いの学問・文化の交換の場として扱うこととした。


(注)

この際、フェリックスの策にはまった魔剣カーネイジもその長い一生を終えている。

また、ヒルデガルドにはフェリックスの所持していた闇の指輪(選帝侯の指輪)が正式に譲渡されている。


西方暦紀元1062年

8月26日

ヘルマン1世崩御・ヒルデガルド王女成婚及び戴冠

以前から体調を崩していたヘルマン1世が崩御した。(上記の日付は崩御の日)。

その前からヒルデガルド王女の成婚式はすでに予定されており、ヘルマン王崩御の事実は成婚式及び戴冠式の後まで隠蔽されていたという。

及び、というのは、ヒルデガルド王女が王妃ではなく、女王として立つことが決定していたからである。第一王子は分家を与えられ、第二王子は教会に入ることとなった。

王妃マルガレーテやフォーゲルヴァイデ家の思惑が働いた部分もあるのであろうが、その割にははっきりしすぎている動向に、ヘルマンの急な崩御が関係しているのかという憶測がついて回るのは仕方のないことであろう。


(注)

ヒルデガルドの即位はこの時点では名目的なものであり、選帝侯による選挙は未遂である。


西方暦紀元1063年

4月7日

ハウトリンゲン公子、エステルランド入り

元ハウトリンゲン公国であるブレダ王国内に潜伏していた、ハウトリンゲン公の確かな血脈である遺児ノビー・ハウトリンゲン(本名ノビー・ライヒェナウ)の所在が裏の情報流通で不自然なほど急に明らかになった。

情報によれば、ガイリング2世を僭称するブレダ王国の国主ツェルコンが持つはずの選帝侯の指輪“雷の指輪”を所持しているようだ。

しかも、すでに元王妃マルガレーテの導きでエステルランド入りしているという。

残る“鳳の指輪”の選帝侯が現れれば、すぐにでも次なる王が選ばれることとなるだろう。

遺児ノビーがどのように勢力図に巻き込まれるのか予断を許さない。


また、ある意味侵略の名目を失ったガイリング2世の今後の動向も注目される。

今更矛を引くわけもないだろうと予測はされるが……

8月25日

ハウトリンゲン公子、北狄討伐

永きに渡り沈黙を保っていた、北の要塞シルトマウアー。

その城壁付近の、異様なまでの北狄集結が、そもそもの発端であった。

シルトマウアー近くに駐屯していた一軍が、北狄の小集団に壊滅させられた事件を口火に「北狄来襲」の噂はハイデルランドを縦横に駆け巡った。

事態を重く見たエステルランド王国は、客分として保護していた旧ハウトリンゲン公国公子ノビー・ライヒェナウを旗印とし、「北狄征伐」軍を、シルトマウアーに向けて発進させる処置に出た。

誰もが激しい反発を予測していたブレダ国は、なんと、これを静観。

長い行軍の末、シルトマウアー城壁に至った北狄征伐軍はなんと一兵も失うことなく北狄を敗走させるという掛け値ない勝利を得て凱旋した。

この軍を率いた形になるノビー・ライヒェナウに対しての賛辞は多いが、一部の宮廷の毒蛇たちの間では当初より彼に名声を得させるための算段であったとしてこの新たな『操り人形』に、皮肉の視線を投げるものも少なくはない……。

9月8日

ブレダ王ガイリング2世、エステルランド再侵攻開始

ついにツェルコン戦役が第二の舞台の幕を落とした。

“雷の指輪”継承者としてその立場を争うはずのノビー・ライヒェナウの躍進の機会に、予測外の譲歩を見せていたブレダ王国は、その不気味な静寂を自由都市ケルバーへの奇襲という形で破った。

同時に近隣で起きた、古き民の遺産による自動人形軍隊侵攻の対応に兵を裂いていたケルバーは完全に虚を突かれる形となり、早期の陥落は必至と見えた。

しかし、氷竜の迎撃と、これまた不気味な沈黙を破ったケルファーレン公国の援軍によりブレダ王国の軍隊は一時撤退を余儀なくされた。


一説によれば、ガイリング2世は“指輪”による大義名分を唾棄し、真の意味での改革『旧王制破壊』『民選王樹立』を主張し、侵攻への助勢を呼びかけているという。


西方暦紀元1064年

4月13日

天空城砦陥落

伝説は事実であった。そして、お伽話には悲劇の結末が待っていた。

それを目の当たりにし、そこから真実を導き出せたものは多くはないかもしれないが、空を舞う城が炎上し、大地に叩きつけられ爆砕したというのはどうやら事実のようだ。

さらに複数の天空城砦を目撃したという情報もあり、墜落したのがあのザイドリッツ号であるかは報告を待つ以外にないだろう。

現在、天慧院をはじめとした各団体が墜落跡で調査を進めている。


因果関係は不明であるが、同時期に近隣で死に至る疫病が蔓延した。

天慧院の迅速な対応で被害は比較的早期に最小限へと抑えられたが、海の向こうのブリスランド王国でも同様の疫病が流行したという事実を考慮すれば賢明な者、あるいは想像力豊かな夢想家はそこに関連を見出すことができるかもしれない。

5月11日

ケルファーレン公ガイリング失踪

その謎めいた動向に注目されていたケルファーレン公国の“紅公”ガイリングが、選定侯の指輪のひとつ「紅の指輪」と共に突然の失踪をとげた。

元来、城の中の深き塔にこもって表に現れなかった彼の者はその実在すら危ういと言えたかもしれないが、その城はもぬけの殻と化していた。

ことの始終を目撃したとされる近隣の城伯ロイヤルローズリッチマン家当主曰く、いつごろからかは分からないが城のほぼ全ての者はクレアータとなっており人間と思われたのは紅公を名乗る少女と、権力を握っていたと見られる(?)宰相、他には下働きの下男が一名確認されたのみだと言う。

紅公を名乗る少女は失踪の際に「紅の指輪」を堀に投げ捨てており、所在を巡って現在も捜索中である。

なにぶん目撃証言が少ないため、その少女が真の紅公であったのか、指輪が本物であったのか等、真相の究明には時間を要するであろう。

5月23日

ハウトリンゲン騎士反逆・ヒルデガルド女王誘拐

「雷の指輪」と共に、エステルランド王都フェルゲン宮中において存在を確かにするノビー公子。

その近侍である女騎士が、王兄アンセルに反逆の刃を向けるという事件があった。

長く病床にあるアンセルが急に活発な政治活動を開始し、ブレダ王国ガイリング2世との和平交渉を提案していることが今回の事件の裏にあると見られている。

亡国ハウトリンゲン公子とその臣下にとって、看過し難い事実であるからだ。

しかし、本人の弁とノビー公子が自らの手を下したことなどから女騎士は他者の成りすました(操られた)間者であるとする判断が公式のものとなっている。

この事件の真相は、いまだ解明されていない。

その大きな理由のひとつは……同時に起きたヒルデガルド女王の急病である。

急な情勢の変化、年齢には重過ぎる責任。数々の心労が重なったとされ考えられるが国政への復帰時期の見込み、病名などはまだ明らかにされていない。

一部では、上記の事実は対外的に用意されたもので、女王は何者かに誘拐されたという話もある。

その犯人は、数日前からアンセルの下を訪れていた謎の老人。そして、北狄征伐の名軍師と謳われた正真教司祭の男。

憶測だけから生まれたにしては奇妙過ぎる噂話である。

また、来都していたロイヤルローズリッチマン城伯と共にノビー公子が出奔。

さらに、ヒルデガルド女王を支えるべきその夫も同時に失踪との話まで飛び交っている。

これらの事件の裏に闇の存在が関わっていると侍女達の間で語られているが、宮中陰謀劇におとぎ話を結び付けたに過ぎないだろう。


迫るブレダ王国の勢いの前に、エステルランド国内の混乱は致命的な加速をする一方である。

7月4日

ヴィンス公国エクセター共同領より独立

魔神大戦以来、共同直轄領となっているヴィンス公国での年に一度の御前剣闘大会。

過去2回、エクセターとエステルランド双方が威信をかけた剣士を出し合ってきた。

今までにエクセター王国側の2連勝が続いていた、今回3度目。

民の間にワイト族や新派真教に対する不信感が広がる中、その意義は大きなものとなった。

広まっていたエクセター側に対する噂のほとんどはデマであったが、事件は起きてしまった。

大会のクライマックスでの最も重要な試合において、エステルランド側の観客の不満が爆発。

もともと計画されていたのか闘技場内外から武器を手にした民衆が押し寄せた。

試合観戦中のエクセター貴族や、従う騎士達を標的としたクーデターである。

その反乱は、予想外の人物によって収拾される。

行方をくらませていたリエッタ・クリューガー(フェリックス・クリューガーの一人娘)と同じく消息不明であった元ヴィンス13鬼衆の首領にして聖微騎士団団長カール・ブリッツ、さらに数名の戦士達が僅かな軍勢を従え、やや犠牲を出しながらも見事に暴動を鎮圧したのである。

複雑な取引と牽制の結果、エクセター王国は治安維持能力の無さを問われ、自由貿易と学問交流の継続を確約した上で、ヴィンスから撤退。

(1年以内に徐々に撤退することはエクセター王国本土でもすでに話し合われていたらしいが)

リエッタ・クリューガー達は今回の功績から再びヴィンス領を治めることとなったが、個人の暴走とはいえ、反逆者を出した家系が何の条件も政治判断もなく再興できるわけがなく。

その条件のひとつは、リエッタを王都フェルゲンに人質として差し出すこと。

二つ目は、リエッタに早い時期に婚姻を行わせてクリューガー以外の家名による統治を考慮すること。

ヴィンス公国は、王無き城に再び威厳を取り戻すことは出来るだろうか……

ちなみに。暴動鎮圧後、カール・ブリッツの亡骸が闘技場のど真ん中で発見された。

彼の死に際を見取った者は知られていない。

7月18日

ブレダ王国軍、ケルファーレン領に入る

ガイリング2世の大望の下、ブレダ王国軍はキルヘン川沿いのロイヤルローズリッチマン城伯の所領に攻撃をしかけていた。

小競り合いを繰り返しつつ南下・渡河したブレダ王国軍の前に、もはや戦線の維持は不可能と思われた。

7月18日朝、ブレダの軍は指揮官の不在(城伯に面会を申し込み、帰らなかったと噂される)に見舞われながらも一気に渡河・侵攻を開始。城伯の軍は些細な抵抗の後に総崩れとなり、すぐさま撤退を開始。

しかし、ブレダの軍を待っていたのはもぬけの殻となった城下街だった。

人はおろか、金目のものは一切残されておらず、家畜・食料にいたるまで持ち去られるか、焼却済み。

当然、城伯アルテヒルデ・ロイヤルローズリッチマンもローゼンカッツェ城にはいなかった。

街の人々は未明のうちに、城伯(一説では従える猫人とも)の指示でケルファーレン公国の中央・カルデンブルクを目指していたのだ。

傭兵や民兵を多く抱えるブレダ軍にとって、これは大きなダメージとなる。

少なからずの犠牲を出しての結果がこれでは、騎士でもない彼らの不満を抑えきれない。また、補給も後方支援を待つしかないのだ。

数日後、その鬱憤を晴らすかのようにブレダ王国軍は近隣の都市にも侵攻するが、次の所領でも同様の憂き目に会う。

傭兵たちの不満と糧食の問題が深刻化する前に、戦線の一時停滞という判断を下すしかなかった。

こういった状態の軍はゲリラ戦などに滅法弱く、兵を多く損失する可能性があることも大きな理由だろう。

結果、ローゼンカッツェ城とその城下を新たな拠点とするに留まり、態勢を整えなおすこととなったようだ。


一方のロイヤルローズリッチマン城伯とその街の人々は、しばらくの行軍の後に無事カルデンブルクに到着。

ほぼ同時期に、行方不明となっていた“紅公”ガイリング・パーデルボルンの帰還が広く報じられた。

上記の作戦の際にその力添えがあったというが(避難先としても十分力添えと言えよう)、定かとはなっていない。

11月7日

魔神クエンタ破滅・女王ヒルデガルド再度の「初婚」

女王ヒルデガルドの急病、誘拐……真相は謎のまま5ヶ月が過ぎた。

病床にあるといわれるヒルデガルドが時折民衆の前に姿を見せることから、誘拐説は薄れるかと思われたが、事態は好転しない。

数々の噂やその他の進行状況。さらに、王兄アンセルの政治的失策、枢機卿マレーネの軟禁……

フェルゲンの混乱は収まる気配を見せなかった。

特に、王都に人の姿を借りて潜伏していた魔物が暴れたという事実は、人々に激しい疑心暗鬼を抱かせる。

誘拐犯と噂される人物が部下であったとはいえ、枢機卿マレーネ・ジーベルも魔神の姦計に落ちた魔女扱い。

ついには「女王ヒルデガルド自身が魔神である」との噂まで流れる始末。

そこに女王誘拐犯と言われる元真教司祭カルア・バレンボイムと、女王ヒルデガルドが帰還した。

その日。王宮に詰め掛けた民衆は、幾年ぶりか……歌うように語る皇后マルガレーテから全ての事の真相を聞くこととなった。


生まれた時から、「ヒルデガルド」は2人いた。そう、双子の子だったのだ。

2人はお互いを助け合い、学問も社交も政治も……2人で補い合ってきた。

しかし、成婚の際に2人の心は分かれた。1人は夫を受け入れ、もう1人はその境遇・状況に躊躇した。

この時から、片方のヒルデガルド──後に闇に進むためにここでは黒と呼ぼう──が「男の妻」となり、主導権を握り始める。

黒のヒルデガルドは、もう一方の──対して白と呼ぼう──ヒルデガルドを殺害し、全ての実権を握ろうと考え始める。

夫として招いた男は……なんと“呪言紡ぐ蜘蛛”魔神クエンタと入れ替わっていた。

黒のヒルデガルドはクエンタに籠絡され、新たなクエンタの依代とされてしまっっていたのだ。

その危機を察した真教司祭カルアは……人知れず心を通わすまでになっていた白のヒルデガルドを連れ、王都から逃げ出した。

数ヶ月の旅で、2人は数々の苦難を乗り越え、憎き魔神クエンタを葬り去る術を知った。

一方、その事実を知った王兄アンセルは、エステルランドが魔神の意のままにならぬ様、無理を押して政治に乗り出した。

しかしそれも魔神の意の内。アンセルはことごとく裏をかかれ、その政治手腕に疑問の声が投げかけられる。

その危機に……白のヒルデガルドとその伴侶カルアは、魔神と戦う術をもって王都フェルゲンへと帰還する。

そして、長き時を生きた蜘蛛の魔神は。光の者達(共に戦いし者は、騎士と射手、盗賊だと言われる)に滅ぼされた。


多くの民衆が、半壊した王城の上部で、彼らに砕かれる蜘蛛の魔物の姿を目にした。

帰ってきた真の女王ヒルデガルドと、愛し合う元真教司祭カルアの間には、それが虚偽で無きことを示す黄金の鎖「双縛鎖」が夕刻の光を受けて、光り輝いていた。

数日後、2人は初婚として正式に結ばれた。式を取り仕切ったのは、かつての部下カルアに一度は破門を言い渡したマレーネ。

しかし、そこには王兄アンセルの姿は無かった。

魔神との戦いがあったあの日……彼が人知れず進行した病によって命を落としていたということが確かめられた。


急転する王都フェルゲン、そしてハイデルランド。その行き着く先はアーのみぞ知る……

11月28日

ケルファーレン公国姿勢表明

多くの難民をかかえるカルデンブルクは非常に難しい状態にあった。

やや膠着状態とはいえ、ブレダの進軍とケルファーレンの少数ゲリラによる戦闘は続き、しかも、その状況にあって王都フェルゲンからの援助を紅公が拒否。

このままでは陥落も時間の問題か、と思われていた頃に事件が起きる。

紅公のその姿勢と現状に疑問をもったのか、公国内で大きな力を持つ市長ニクラウス・ベルトフリッツが紅公と会見を催すこととなった。

しかし、その会見2日前となってそのニクラウスが殺害されてしまう。

数日前にも、先のハイデルランド王ヘルラントの息子エーリッヒを名乗る男による暗殺が国内で起きており、その関連性も推測されたが、今回の暗殺は旧派真教司祭を名乗る王都からの使者によるものとされた。

各方面からの追跡にもかかわらず、その容疑者は現在も逃走中とされている。

ニクラウスを失いはしたが、紅公と市長・商工会側との2日後の会見は予定通り行われた。

この日の紅公(仮面を装着しているが、女性?と疑わせる風貌だという)は、突然の態度軟化と柔軟性を見せた。

王都からの支援の受理、以前よりは透明度を増した協力関係への努力、これからの公国内での主導と団結、(当然はねつけられたが)ブレダへの休戦協定申し入れ。

エステルランド王国は、ようやく対ブレダの一致を見せはじめた。

かの覇王をとどめるには足らずとも、これで戦いは2転3転の気配を見せはじめた、といえるかもしれない。


西方暦紀元1065年

1月29日

ブレダ王国宮廷魔術師、郊外墓地にて死亡

エステルランドへの侵攻のみならず、活発化しはじめた北狄にも兵を向けねばならなくなったブレダ王国。

国王ガイリング2世が北へ一時的な出征を行った際に、事件は起きた。

ブレダ王国の宮廷魔術師エルナークは、ガイリング2世の従弟にあたる。

ガイリング2世には嫡子がいないため、王位継承権にも近い人物である。

そんな彼が、ドラッヘンブルグ郊外の共同墓地にて刺殺?体となっていたという目撃情報があった。

彼に関する噂はあまり良いものではかなったが、それでもひとつの大きな事件である。

死体が早期に処理されたためか、民間にははっきりとした情報として広まらなかったが……

真に驚くべきは「内政的にも大きな騒ぎにならず」淡々と後処理が行われたことである。

その理由に関して「濡竜将による断罪であったため無問題となった」「同様に近い血縁者が発見された」などがあるが、どれも憶測の域を出ないものであり、真偽は定かとなっていない。

2月26日

ハウトリンゲン公子ノビー、対ブレダ快進撃

王都フェルゲンから忽然と姿を消していた、亡国ハウトリンゲン公子ノビー・ライヒェナウ。

彼の姿は、進軍してくるブレダ王国に対するエステルランド側ゲリラの中にあった。

最初は小さな反撃におさまるかと思われたその集団は……

周囲の予想をはるかに上回る奇跡的な勝利と神がかりな進軍力で、連戦連勝。

噂を聞きつけた元騎士や反ブレダ傭兵、すでに国を失った元貴族達が彼の元に集まっていく。

もはやゲリラというより一個の独立軍と化したそれは「ハウトリンゲン公国軍」と呼ばれた。

ついには元の国境均衡線を越えてケルバー以北に進撃した彼らは……しかし、そこで進軍をやめる。

確かに客観的にも奇跡的過ぎた勝利の上に積み重なった突出は、相当危ういものであった。

総大将ノビー公子の英断か、その他の理由があるのか。

詳細な真実については多くが語られているわけではないが、ノビー公子は同じく他所のゲリラ戦で活躍していたロイヤルローズリッチマン城伯と共に王都フェルゲンへと向かう。

戦線は一時的に後退することとなるが、先遣隊とはいえブレダ国軍に与えた被害は甚大。

王都の操り人形とも噂された幼き王の器は、大きな名声と経験・カリスマ性を得て本国帰還を果たした。

ブレダの苛烈な進撃に対してエステルランド王国の反撃が始まるのか?

その、少なくとも一端を……彼の雷の御子、ノビー・ライヒェナウが担うのは想像に難くない……。

3月12日

ノビー・ライヒェナウ、エステルランド国王即位

3月12日、光柱祭の準備で賑わうエステルランド王都フェルゲン。そして、翌日13日は光柱祭第1日であり、同時に現暫定女王ヒルデガルドの誕生日にもあたる。

前王ヘルマン1世の崩御から、数々の障害を乗り越え……ついに選帝侯会議がこの日行われた。

だが、その直前にもいくつかの事件があった。

“輝きの指輪”所持者、ミンネゼンガー公ループレヒトの暗殺。

“水の指輪”所持者、アイセル大司教コルネリア一行に対する襲撃。

前者は同行していた嫡子ジークベルトへの指輪譲渡、後者は枢機卿マレーネと騎士エメラルド卿のフォローにより、それでも会議は強行される。

12日午後、会議が行われていた市街の邸宅に(会議は城内と思われていたが違った)人々は信じられない光景を目にする。

巨大なる火竜……かの邪なる“紅蓮大火焔竜ロヴレンド”が、その邸宅小塔に唐突に出現したのだ。

市街へと向けて広がる熱気と炎の輪、そして、塔の外壁にとりつき内部に苛烈な吐息を浴びせ続ける悪魔の化身。

恐慌におちいる人々を教会や学芸院……さらに火竜の攻撃から逃れた数人の選帝侯が誘導し、事態を鎮静させていく。

一方の“紅蓮大火焔竜”は、“鳳の指輪”所持者アルテヒルデ・騎士エメラルド卿・枢機卿マレーネらの手によって滅ぼされる。

多少の死傷者は出たが、かの火竜の悪夢のような出現に対し、被害は最小限に抑えられたと言えよう。

この火竜の突如の襲来に関しては、様々な憶測が飛び交う。

新ミンネゼンガー公ジークベルトによる『持ち込み』、ブレダ国王ガイリング2世による虐殺的戦略。

人々の耳には数々の噂が舞い込むが、エステルランド王国の正式発表は「ミンネゼンガー公がツェルコンの姦計に落ち、邪竜を導く結果を招いた。公は勇敢に戦うが、その吐息に焼かれ戦死」というものだった。ブレダ王国は当然それに反論を返すが、真実は定かではない。

だが、フェルゲンの人々は翌13日。さらに驚くべき、そして歓迎されるべき発表を受ける。

神がかり的な系譜と戦勝を重ねることで民衆の心情的支持を得ていた亡国ハウトリンゲンの公子……『ノビー・ライヒェナウ』が選帝侯団に推挙され、アイセル大司教コルネリアによって戴冠されたのである。

齢わずか11歳。確かに子供であるが、数々の知恵者・剛の者がその周囲を補佐する。

暫定女王であったヒルデガルドの祝福をも受ける少年王を、人々は惜しみなく称えた。

災厄と祝い事にわくフェルゲンで、そのまた数日後。

前ヴィンス公の娘リエッタ(・クリューガー)と、国王ノビーの再従兄にあたるロタール・デューラーの婚約が発表された。

年の差は20歳。だが、家柄・状況ともに誰もが認める婚約であった。


ちなみに、今回の選帝侯会議を経ての“指輪”所持者は以下の通りとなった。

“闇の指輪”クールラント女公ヒルデガルド・フォーゲルヴァイデ。

“炎の指輪”ケルファーレン公ガイリング・パーデルボルン。

“氷の指輪”シュパイヤーマルク辺境伯アダルベルト2世・ブリーエンツ。

“水の指輪”アイセル大司教コルネリア。

“鳳の指輪”ローゼンカッツェ女城伯アルテヒルデ・ロイヤルローズリッチマン。

“輝きの指輪”新ミンネゼンガー公エッケハルト・フォーゲルヴァイデ。

“雷の指輪”新ヴィンス公ロタール・デューラー。


エステルランド王国とブレダ王国の対決は、ここからまた新たな局面へと突入していく……

4月3日

新ヴィンス公ロタール・デューラー即位式典

この日、フェリックス・クリューガーの背徳的反逆から急転し続けたヴィンス公国にまたひとつの転機が訪れた。

エクセター公国の併合が解消された後、王都預かりとなっていたヴィンス公国。

前ハウトリンゲン公ライヒェナウ家の近親ロタール・デューラーがヴィンス公として立つ即位式典が行われ、同日、正式な騎士団を随分昔に取り潰されていたこの国に、新たに「聖輪騎士団」が配備された。騎士団長は、故カール・ブリッツ(元剣匠卿・“宵闇の騎士”首領)の子息、グレゴール・ブリッツ。

式典は盛大に行われ、ロタールの演説の際には……なんと。高名なる自由騎士エメラルド卿が天空から舞い降り、団長と共に悪役を討つ、というエキシビジョンまで行われた。

また翌日は、フェリックス・クリューガーの息女リエッタと、ロタールの成婚式典。

エクセター王国がほぼ撤退したとはいえ、すでに文化交流は進み、新派教会も内に抱えている複雑な状況。この国が今後どのような展開を迎えるのか。賢人にも予測は難しい状態である……

4月23日

フェルゲン近郊に巨大浮遊岩塊墜落

新国王ノビーの治める王都フェルゲンを、天変地異的怪奇現象が襲った。

数週間前から、フェルゲンの北方に突如出現した空中浮遊する巨大岩塊に、王都の人々の興味は集中していた。

だが、エステルランドの為政者・識者達の行動は迅速だった。その異常性と出現理由について、早期から多くの可能性が挙げられ、詳細な調査が進められた。

しかし、天慧院・学芸院の調査団が本格的な「潜入」調査を開始する段階になり、事態は急転する。

突如として平行移動速度を上げた岩塊が、フェルゲンへと高速移動を開始したのだ。

結果的には、フェルゲン学芸院の組織した調査団の活躍で岩塊はフェルゲン都市部寸前で崩落。

危機は回避され、事態は事後処理と収拾へと移行していった。


ここまでの伝説的怪奇現象が起きた例は近年では4年前の魔神大戦くらいであり、実際にその浮遊岩塊の高速飛来を目にした人々の混乱は激しかったが、その混乱をさらに加速させうる憶測が出回っていたことも記す必要があるだろう。

この岩塊が魔神アーグリフの居城ヴェルンフラム城、あるいはそれに類する物であるとの説が生まれ、そこに名士サルモン・フィーストが、彼の魔神の被造物・白鳥人を匿っているとの噂がつながったのだ。

『浮遊岩塊は、サルモンが養女として匿うアルマによって操られ、フェルゲンへ落ちる。そして、王都に集う多くの英雄の魂が魔神へと差し出される』

彼の魔神の仕業と考えるには例のない手法であることは、この説に疑念をはさむに充分なものではあったが数々の状況証拠と真教司祭の弁舌が疑惑を加速させる。

「我々が讃えてきたサルモン・フィーストの行動・導きは、実はより大きな闇と戦乱へ世界を誘う手立てであった」

だが、そんな言葉を誰がにわかに信じようか。

サルモンが匿ったとされる「白鳥人であるはずの」アルマは確かに岩塊に乗り込んでいたが、枢機卿マレーネ・ジーベルによって単なる少女であることが証明され……煽動した司祭こそが闇の者であることが晒され、断罪された。

事件の真相は詳細には知られないが、司祭達のサルモンへ対する姦計ということで納得が得られた。

それでも、生じた天変地異的怪奇現象は人々の心に大きな不安を残す事となったではあるまいか……

4月25日

自由都市ケルバー、麻薬によって大打撃

現国王ノビーの活躍でやや戦線が北上したとはいえ、ブレダ王国軍の矢面に立つ代表的な都市ケルバー。

この交通の要所としても重要な自由都市で、麦角を原料とした強力な麻薬が蔓延した。

その名もグナーデン・ロッゲン。


その精製者は禿鷲によって抹殺され、研究施設や完成品が押収されたが……

領主リザベートを含んだ多くの者が、砂糖・配布された菓子に含まれたこの麻薬に犯された。

不幸中の幸い、街に駐留する傭兵等は配布された菓子を口にすることが少ないため、この被害をあまり受けていない。

事件直後に麻薬の供給はストップし、街の人々は回復へと向かい始めたがその被害は決して小さくない。

ちなみに、この麻薬の最大の効果は摂取者を強力な狂戦士へと変えることにある。

いくら完成品を押収したとはいえ、この麻薬の情報を知った者が再び精製法を研究しないとは考え難い。

ケルバーの少しでも早い完全復興を望むと同時に、この悪魔の薬が再度世に現れない事を祈るばかりである。

5月4日

ケルファーレン南端方伯領エングラント反乱

政情不安定な中、ようやく“紅公”がやや透明な動きを始めてから半年。

しかし、今まで“紅公”が布石してきた所業は、まだまだ不透明で危険な香りを残す。

事実、王都など中央での評判は上昇しつつあるが……公国内ではいまだに不信感が強い。

さらには、やや小康状態に移行したとはいえ、ブレダとの戦争状態の継続。

上層の動きと離れた民衆の期待は『“紅公”にとって変わる英雄』を求めていた。

ケルファーレン公国南端の方伯領エングラント。

この街で領主の暴政に対抗すべく立ち上がった反乱軍が、親"紅公"の方伯ヒンツ・カンナビヒを打倒した。

伝え聞くウワサでは、ヒンツも“紅公”に対する恐怖で束縛されており、

その後の絶望的な処遇を恐れ、降伏を断固拒否して斬り死にを望んだという。

反乱軍のリーダーは、このエングラントの前領主の息子、フリーダー・パーデルボルン。

「ロヴレンドの遺産」を求めて近隣に派遣されていたカルデンブルク公国軍の小隊が状況をおさめ、ヒンツの悪行と違法行為が認められた結果、フリーダーがこの街を治める事となった。

悪行が晒されたとはいえ、あっさりフリーダーの方伯就任が公国側から認められたことに違和感はあったが、それには近年の"紅公"の政治姿勢の変化が影響していると考えられる。

しかし、一方のフリーダーは“紅公”に対する不信を隠そうとはせず、方伯としての地位を拒否。

ケルファーレンに多く存在する「市」と同じ態勢をとることを主張した。

このパーデルボルン家の不和が、ブレダ王国軍に対して致命的な隙を見せない事を望むばかりだ……

6月19日

ケルファーレン公国主権譲渡・紅公謎の陰謀

戦地であり、政情不安定の治まらなかったケルファーレン公国が揺れた。

先日南の都市エングラントに立ったフリーダー・パーデルボルンが市長連と共に登城。

紅公に、今までの不徳と昨今の急な態度緩和についての思惑・転身の説明を求めたのだ。

以前にも「姿勢表明」の際に動揺の論議はなされていたが、今回はまた違った。

紅公にかわりうるパーデルボルン家の新たなリーダーが、公然と教会のバックアップを受けて来たためだ。

しかも、前回は商人のリーダー・市長ベルトフリッツ殺害の直後でもあった。

だが、紛糾するかに見えた会議はあっけなく収束へ向かった。

引退後も譜代貴族として友好的に取り計らってもらえる事を条件に、紅公ガイリングは『公』の立場をフリーダーに譲渡することを快諾したという。

そして、その晩。収束に向かった事態は、また闇にまかれていく。

フリーダーと別室で懇親していた紅公が、フリーダーの目の前でで焼身自殺をしてみせたのだ。

今までの恐怖政治と急な態度緩和を合わせてみれば、生き方を悔いての自害にも見えた。

しかし、居合わせた司祭の術により、その死体が紅公でないことが看破されて事態は暗雲に包まれる。

紅公は、死したと見せかけて、指輪と共に逃亡を図ったというのが人々の見解だ。

彼の者は、また謎に包まれる。

多くの者がその行方を追うが、発見の報告はない。

ケルファーレンの人々にとっての暗すぎる夜は、まったく明ける様子を見せない……

7月9日

司教領特使エレナ・ヴァイゼル枢機卿乱心

ノビー国王と選帝侯会議によって発足した定例王国首脳会談。

これは、1名以上の選帝侯と選帝侯推薦特使数名……合計7名前後によって行われる新しい決定機関である。

(発案は、アルテヒルデ・ロイヤルローズリッチマン女伯と言われる)

この会談に出席するため(その後しばらく常駐予定だった)、アイセル司教領から来た特使。それがエレナ・ヴァイゼル枢機卿である。

教皇の座に近づいた事もある人物であり、また相当の強硬派であることが知られていた。

ところが、彼女は王都に入った後に体調不良や精神疾患等を発症したらしい。

もともと入城の時点から心身の不調を本人が訴えていたことも明らかとなっているが、その「不調」の結果、エレナ枢機卿はついに発狂。教皇に対する不敬の言葉と罵詈雑言、そして「救世母マーテル再臨」を叫んだとされる。

あまりの乱心ぶりに見かねた同席者によって彼女は討たれたが、これは教会の権威を守るための行為として不問に処理されている。ただ……その不調・乱心の原因が特定できず、何者かの姦計による可能性も考慮された結果、

その遺体は丁重に扱われ、アイセル司教領へと運ばれることとなった。


しかし、この公式発表の他にも一般に流れているウワサはある。

エレナ・ヴァイゼル枢機卿と闇組織「黒い幽霊」の関係、フェルゲン入城前から、マーテル再臨を唱え同行の者を抱きこんでいたとの情報。

これらの流言は、裏の者や事情通に言わせれば比較的信憑性が高いものであり、教会側の体面を保つための隠蔽が施されての公式発表……と考える方が自然であろうか。

教会は人々の拠り所であるが、そこでアーとマーテルの教えを説く者はやはり人間。

そう思わされる事件であった、とも言えよう。

8月7日

エレナ・ヴァイゼル復活、新興教派を率いてフェルゲン侵攻

アイセル司教領に運ばれていた故エレナ・ヴァイゼル元枢機卿。

しかし、彼女は神の奇跡を唱え、自らを「世母」と呼び、復活を果たした。

彼女は贖罪の完了を待たぬマーテル再臨を主軸とした新興の教派を設立、ヴァルノウ近くの廃墟に本拠を置いた。

数々の奇跡をもって「神がかりといえる」速度で周辺貴族をその旗の下に従えていく。

当然、それを異端とする教皇領が迅速に動くが、その派遣した騎士団までもが彼女にそっくり寝返る始末。

周辺の所領の者はもちろん、王都でもこれは大事として捕らえられていた。

……捕らえていたが、まさか「明日明後日」にその脅威が直撃するとは誰が想像しただろう。


彼女の最初の暴挙から「ようやく一月」が過ぎようという8月6日、天慧院設立760周年記念パーティが、王都フェルゲンの学芸院でも行われていた。

驚くことに……その会場に「九聖女」を名乗ったエレナ・ヴァイゼルを含む数人の女性が乗り込み、サルモン・フィーストへの協力要請(断られたが)、さらにはマーテルの器となる少女の発表を行ってみせたのだ。

その少女は学芸院の学生であり……どう見てもクレアータ。名は「トライア」。一斉に彼女へ向けられる好意的と呼べない数々の視線。

即日、彼女の処遇に関して王都上層部で会議が行われ、その身柄は監禁された。


それでも、状況はその解決を待たない。

なんと新興教派の武装した軍が、翌未明……フェルゲン郊外に布陣したのだ。

一体いつの間に?どうやって?

騒然とする王都。しかし、この軍は何者かによって打撃を受け、即刻散り散りとなる。

その真相ははっきりしないが、この謎の多い布陣に危機感は一気に煽られる。猶予は、ない。

猶予がないならば。贖罪の終わりを待たぬマーテル再臨は説かれ、その転生体としての少女が予告されているのだ。

当然生まれる発想が……『彼女を消せば、振興教派は旗印と"教会に意義なし"の大義名分を失う』である。

この日のうちに、上層部は結論を出せなかった。

そして、監禁状態から逃亡していたトライアは、「マーテルとして生きる」結論を出した……と言われる。

王国の衛兵に取り囲まれるトライアと、その逃亡援助者。その終結は一瞬だった。

そこへ降臨してみせたエレナ・ヴァイゼルは、何故かトライア自身によって刺殺され。

1度は走り去ったトライアも、逃亡援助者であった者達の手によってその命を断たれた。

クレアータに、命と呼べるものがあるのならば。


その後、新興教派は急激に勢力を縮小しつつ、瓦解。現在残存している潜伏者達には大きな脅威はないとされる。


無理矢理といえども、かのマーテルが再臨したとして。人々はどうなっていたであろうか。

その答えを見ることはもう出来ないが……人々は恐怖をもってそれを迎えようとしていた……そう、感じる。

9月4日

ブレダ王国エーバーハルト方伯、ケルバーに単独進撃

エステルランド王国の北端、自由都市ケルバーに向けてブレダの軍が迫った。

その軍は、ケルバーやや北方…ちょうど現時点のブレダ側最前線といえるエーバーハルト方伯のものだった。

そこまで進軍しているエステルランド王国軍を、なんらかの方法でスルーしての侵攻となる。

しかし、その規模や前後に敵を置いた布陣は愚かという他ない。

これだけ隠密裏な進軍が出来るのならば、後方から前線のエステルランド軍を叩いた方がまだマシというもの。

ならば、この進軍に複雑な意図があるのでは……疑心暗鬼に襲われながらケルバーは抗戦の準備を整える。

しかし、その進軍に疑念を抱いていたのはケルバーの者だけではなかったようだ。

軍を率いていたのは、方伯の家臣ヴォルケラング・ハイシュタイン。

本陣……つまりブレダ王国との連携がないのでは?とヤマをはった錬金術師部隊の姦計が発動する。

結果として、ヴォルケラングは陣の乱れと混乱を察しての即時撤退。

この進撃は双方にほぼ打撃を与えることなく終結した。

後に、ヴォルケラングは何者かに討たれる。

兵はエーバーハルト方伯の嫡子と名乗る人物によってまとめられ、撤退をはたしたという。

混乱があるのはエステルランド国内だけではない。はたして、この綻びは何を予見するのだろうか……

10月2日

リューデスバーデン大トーナメント、新生第1回

ループレヒトが没し、ミンネゼンガー公がエッケハルト・フォーゲルヴァイデとなって半年。

新たに彼が主催することとなるかの大トーナメントが、この日開幕した。

主催が変わったことで、彼なりの裁量が新たに加わり……ルールと進行に変更がなされた。

まず、一部の貴族(今回は6名だったらしい)に1枚ずつ「推薦状」が送られる。

この「推薦状」は本来の出場資格を越えた選手を、出場させうるものである。

もちろんこれは、貴族のスポーツであるこの大会を平民に荒らさせるためのシステムではない。

この「推薦状」で出場し、かつ総合成績上位5名に入った者が、貴族・騎士でない場合、獲得に名乗りを上げたエステルランド貴族いずれかの下で騎士となることを宣言しなければならないのだ。

「推薦状」で出場する者は、この条件を確認されてからのエントリーとなる。


もうひとつの変更点は、個人徒歩戦(トンレット)である。

今まで、戦闘不能となった側の喉元に短剣をつきつけることが勝敗の決定法だったが、これが各々の10本連続打ちによる得点比較制となった。事故による死者の数を減らすためである。

また1日目はいつも通りの進行だが、2日目は1日目の身代金獲得者上位32名によるトーナメント方式。

こういった新しい試みの中、4日目の個人騎馬戦決勝までは大会は順調に進んだ。

この決勝戦が、それまでの試合での八百長疑惑が持ち上がったため一時中断。

しかし、騎士ヴィクス・シュタイナーの紋章官や辺境伯アダルベルト2世による仲裁で試合は続行された。

この後、八百長問題の仕掛け人の煽動で、巨大な魔獣や騎士・衛兵の一部が闘技場を襲撃するが、素早く対応した公達や優秀な騎士達の活躍によって、事態は最低限の被害に食い止められた。

最も大きな痛手は、この戦いの中で個人騎馬戦の準優勝者を失ったことであろう……


以下に今大会のおおまかな成績を以下に記しておく。


個人徒歩戦
優勝ドラッヘン・オルベール・フェーレンバッハ
準優勝グレゴール・ブリッツ(ヴィンス公推薦選手)
3位ヴォルフガング・ロイエンタール(アダルベルト2世)
個人騎馬戦
優勝エヴァンジェリン(ミンネゼンガー公推薦選手)
準優勝ガングリフ・ミッターマイヤー
3位ヴィクス・シュタイナー
団体騎馬戦
1位エヴァンジェリン
総合優勝「最強の騎士」:エヴァンジェリン

なお、個人戦4日の時点で総合1位となっていたヴィンス公国騎士団長グレゴール・ブリッツは、エントリーしていた団体騎馬戦を棄権し……行方をくらましたという。

11月13日

ブレダ王国軍、ケルファーレン公国内から撤退

10月31日。

奇しくも暗転節であるこの日より、エステルランド王国は大進撃を展開した。

ブレダ王国軍に奪われて久しいケルファーレン公国北辺キルヘン川周辺の奪還が主な目的である。

収穫の時期も終わり、数々の偶然と少ないゲリラ・軍勢で保っていた戦線が、ブレダによって崩されるのも時間の問題。

ここで、国内がまとまり始めているエステルランド側が先手を撃って猛反撃に出た。

この行軍は海沿い、ケルバー側、そして川沿いの要所「ローゼンカッツェ」を目指す中央突破の3方向から行われた。

ケルファーレン公国宮廷所在地カルデンブルクの仮の主となっていたフリーダー・パーデルボルンにより、この準備は周到に整えられ……なんとキルヘン川の上流下流も一時的に制圧。

敵兵の援軍経路・他の戦線状況などを考慮した布陣、そして大量投入された正規軍。

フリーダー率いる中央突破軍は、数名による潜入工作も鮮やかに成功させ、ブレダ王国駐留軍にほとんど篭城を許すことなく、第一の目的といえる要所「ローゼンカッツェ」を奪還した。

この所領の本来の主、女傑アルテヒルデ・ロイヤルローズリッチマンが自ら潜入工作に臨んだという。


だがしかし、ここから事態は信じられない方向へ急転してしまう。


まず、フリーダー・パーデルボルンの裏切りによる、兵糧の激減や内部破壊。

さらに、“天空回廊”の下を通る4本の古き坑道と3本の谷川を利用し数年をかけてブレダが作り出した“奈落蛇道”。

完全に想定外の敵軍増員手段に、エステルランド王国軍は激しい苦戦を強いられた。この時……完全包囲されたローゼンカッツェとそこにある今回の主力軍は、ほぼ絶望視されていた。


ところが、その絶望は神風と呼ぶべき巨大暴風によって拭い去られた。

ローゼンカッツェを中心としたその真っ黒な渦は、ブレダ王国軍を一瞬にして壊滅。

さらにはその東の激戦区を局地的な地震が襲い、やはりブレダ王国軍に大ダメージを与えた。

この地震で“奈落蛇道”の南部も大幅に崩落。(その存在がエステルランド側に確かめられたのは、しばらく後であるが)

これらの天災が、狙ったかのようにブレダ王国軍にのみ大きな被害を与えるという奇跡。

その偶然を、数多の妄想で必然のものと考えようとする者は多いが、根拠となる情報は皆無である。


結果として上記の日付11月13日には、ほとんどのブレダ王国軍がケルファーレン公国内から消え、この奪還戦はエステルランド王国軍の全面勝利で一時的な終結を迎えた。

そして、失踪した紅公、裏切りの結果打ち倒されたフリーダーに変わり……この日、“炎の指輪”を手にし、新たなケルファーレン公が立つ。

その名は、カール・ハインツ・S・パーデルボルン。

伝説の名君ヨーカーの末裔である彼が、この国を今後どう導いていくのか。

そして、この戦乱の世に平和と安寧をもたらす人物となりえるのか。


その答えはまだ、わからない。


西方暦紀元1066年

2月26日

エステルランドに相次ぐご懐妊報告

亡家クリューガーからはいあがったヴィンス公妃たるリエッタ・デューラー。

彼女に関するご懐妊の知らせがハイデルランドに流れた。

妊娠何ヶ月かは知らされていないが、今のところ経過は良好とのことである。

これだけでもめでたい話であったのだが、実はその数日前にクールラント女公ヒルデガルドも、同じくご懐妊したとの報告があったらしい。

リエッタのそれに1週間ほど遅れて、知らせは各地にもたらされた。

同じく出産予定日等に関しては公表されていない。


こういった朗報の裏側で、よくないウワサも広がっていた。

その不透明性に発すると思われる、ヴィンス公国上層部への不信感に関するものである。

1度行方をくらました騎士団長グレゴール・ブリッツの帰還が確認されているが、それと直接的に絡んだ根も葉もない憶測といった内容ではなく、その出所は不明とされる。

ハイデルランドを覆う光と影。今はまだ、それはどちらも淡いものである……

3月26日

新婚の灰色公子、紅公を撃破

灰色公子ヨーカーの血と意思を受け継ぐと言われるケルファーレン公、カール。

3月中旬に彼の婚礼が大々的に執り行われた。

カールが破門を解かれた際に還俗したとはいえ、元は上司であったマレーネ・ジーベル枢機卿、同僚であった青眼鏡伯カルア・フォーゲルヴァイデ等が列席する豪華な式であった。

その正妃となったのは、ケルファーレン領フラッシェ女城伯であったユリアーネ・フラッシェ。

力のない貴族であったが、民に慕われた彼女とカールの婚姻は多くの民に歓迎された。


しかし。

すでに愛妾の存在を公にしているカールの、女癖に対する噂などはまだ良いが……彼が「炎の指輪」を手にした経緯の謎や、紅公との不透明な関係などが貴族の間で囁かれた。

婚姻の日、これについての声明が期待されたが、あいにくの暴風雨。民衆への説明ができないのでは同じこと、と貴族連への回答も先延ばしとなっていた。


そして、延期されていた2人を祝う婚礼のパレードがこの日、決行された。

空は快晴、たくさんの人々の歓声を受けて無事全てが終わるかに見えたのだが。

ここでカールと紅公の関係を糾弾する騎士1名が暴走、パレードを中断させた。

騎士の詰問に対し……カールは紅公に元は仕える身であった事実、彼の行いを正そうと尽力し続けたこと、彼がだんだん変化していったことと後期の態度の整合性、かたくなな紅公が自分に心を許したこと。なぜか紅公が消えた後、「紅の指輪」が彼の使者によってもたらされたこと。そして、あのフリーダーの翻意と反乱の可能性をあらかじめ警告してくれたのが紅公であったという話。


「もちろん、私は紅公が犯し……悔いているような過ちを繰り返さないために、ここにいる」


そんなカールに対して、騎士は最後の問いかけを行う。

民はそれでも彼が死刑台に上がる事を望むだろう。あなたは、その声を無視できるのか?

カールは、熟慮はするだろうが受け入れるつもりがあることを、公表した。犯した罪は償われなければならない。彼はまだそれを償いきれていない。それが死で償いきれるというのなら。

騎士はその声明をデマカセ・建前だと叫び、カールへと刃を向け、そして仲間と共に討たれた。


だが……真の恐怖はその後にやってきた。


謎の暗雲と地鳴りの下に、紅公その人が姿を現したのだ。民衆は恐慌をきたした。

新たな灰色公子カールは仲間達、そして妻と共に彼と戦った。それは激烈を極めた。

逃げ遅れた民衆約100名(実際は300名ほどとも)が犠牲になっってしまったが、カールの喚んだ神の光、城から飛来した神速の矢、妙に寸胴な騎士の槍によって。

紅公ガイは、暗き空の中心で、ついに打ち砕かれた。


カールは犠牲に涙したというが、その後の収拾も手早く……民衆の心をまた強く掴みとった。


平和が訪れたかはわからない。政治はまだ荒れており、北にはブレダ王国。

それでも、ケルファーレン公国は……また新たな一歩を踏み出したと言えるだろう──

5月21日

アンゲリア7世新教皇に擁立、聖職選帝侯コルネリア暗殺

先日、正真教教会の教皇アーシュラ・ドニ7世が35歳の若さで崩御した。

寿命とは思えぬ若さであったが、彼女を蝕む病は止められず、その短い人生を終えることとなった。

何者かの呪殺・暗殺が囁かれているが、その真実は闇の中である。

これに伴い、教皇選挙(コンクラーヴェ)がペネレイアで行われた。

この時、選ばれたのはアンゲリア7世。14歳の少女であった。

彼女は、世俗派の司教枢機卿ロクス・コルネリウスの傀儡と噂されるが、その評価を下すのはまだ早計であるといえよう。

ただ、一部の教会関係者を除けば、彼女自身はそれまでほぼ無名に近かったと言われる。

そして、教会から漏れ伝えられるもうひとつの噂は、どうやら真実らしい。

そんな彼女が教皇に選ばれる直前、何者かに誘拐され……さらに暗殺されそうになったというのだ。

暗殺を指示したとされるのは、なんとアイセルの司祭枢機卿コルネリア。“青の指輪”を持つ聖職選帝侯である。

傀儡によって世俗派の支配を受けるのを嫌ったのか、他の思惑があったのか。

その真実も同じく闇の中であるが……断罪の刃に容赦はなかったようだ。

なんとコンクラーヴェのその日、軟禁状態にあったコルネリアが暗殺されたのだ。

下手人の所在は知れず、教会は当然のように関与を否定している。

彼女の胸を貫き壁に串刺しにしていたその刃から所持者を割り出しにかかった者の言では、犯人は「少年」であったと言う。だが、それ以上の捜索は進んでいない――

5月24日

ヴィンス公妃リエッタ・デューラー女児を出産

ブレダとエステルランドの戦端が加熱してきたこの時期に、よい知らせが届いた。

ヴィンス公にして雷の選帝侯ロタール・デューラーとその正妃リエッタの間に、女児が誕生したのだ。

取り潰された家名クリューガー、そしてデューラーの本家であるライヒェナウ。

彼女は、絶滅しかけていた2つの血を引く遺児とも言える。

同時期に懐妊したと思われるクールラント女公ヒルデガルドの出産も近日に控え、この祝賀ムードが、エステルランド軍の勢いに拍車をかけることになるだろう……

6月11日

ブレダ王国東部に「神代の森」誕生

ブレダ王国東部にあるシュルフトエンデ方伯領には高き山がそびえている。

金環日食が起きた6月5日、このシュルフトエンデ山が唐突に大噴火を起こした。

古い(1500年以上を遡る)記録を当たれば、確かにこの山が火山であったことが確かめられる。

地底で大量のマグマを貯めこんでいた火山地帯がそれによって誘爆したのか、続いて周辺での小規模噴火。

この災厄は多くの街や村を巻き込み、大量の死傷者を出した。

噴火の前後、巨大な鳥達による「空中戦」が近隣で目撃されたと言われているが、近年最大級と言えるこの天変地異との関連性は不明である。

(一部の識者は、巨鳥というのは伝説のザイドリッツ号の模造品ではないかと憶測している)


そして、その6日後にあたるこの日。

下火になったとはいえ、いまだ続く噴火活動の中……そのやや南の平原に巨大な何かが堕ちた。

それによる爆発はハイデルランドで常識的に見られるものを超越した大きさで、「キノコ状の雲」を上空に発生させたと言われている。

この爆発による死傷者は、近傍数10キロの範囲でやはり多く確認されている。

後には巨大なクレーター、荒廃した大地と……途方にくれる生き残った人々。


だが。

この2つの大災害の後に、アーの奇跡が起きた。

シュルフトエンデ火山……さらにこのクレーターを覆う広範囲に、いきなり巨大な森林が発生したのだ。

2つの大災害ですら自然現象・物理現象の範囲でおさまるものであったが、この大森林の誕生は明らかに神代の力のなせる奇跡と映ったことであろう。

洪水のように押し寄せていく木々の繁茂が、いまだ流れ出る溶岩を踏み荒らす。

冷え固まっていく溶岩の上、凄惨な破壊地帯と化していたクレーター付近……

北はシルトマウアー要塞・地獄塔から、南はミンネゼンガー公国に接するザール河付近まで。

街や村といった文明的な存在がほとんど失われた大地で、森の恵みがそこに生き残った多くの人々を救った。

戦争状態にあり大規模な救援を向けられないブレダ王国にとって、これは不幸中の幸いであったと言えよう。

森林地帯での暮らしに慣れない人々の多くがこの土地を早々に去ることにはなるが、命を永らえた彼らはこの森を「神代の森」と崇めることとなる。


その一方で。

この森に残って暮らしていくことを選んだ人々もいた。

彼らは……この森に隠されたもうひとつの側面を知り、別の呼び名を与えることになるのである――

注:この森は僅かながらも魔神メローディアの加護を受けています。別名募集中。

6月25日

元教皇特使マレーネ・ジーベル、アイセル大司教に

前教皇の特使としてエステルランドに派遣されていたマレーネ・ジーベル枢機卿が、空位となっていたアイセル司教区を治める司祭枢機卿に任命され、フェルゲンを離れることとなった。

このアイセル大司教は“波の指輪”を所持する聖職選帝侯を兼ねる。

彼女は前教皇と言う後ろ盾を失ったにも関わらず、さらなる出世街道を歩んだと言えるだろう。

その拝命に至る過程に数々の裏取引があったと言われるが、詳細は知られていない。

ただ……年若き教皇アンゲリア7世は正真教教会世俗派が擁立した人物であり、現在の教会はマレーネと反りがあわないはずの者達によって実権が握られているのは確かであろう。


一方で、マレーネと入れ替えにバルヴィエステ帝国から特使として送られたのはウータ・ブラウビッチュ枢機卿。

しかし、彼女は王都フェルゲンへと向かう船の上で殺害されてしまう。

若くして世俗派の有力者となる才覚を持っていた彼女が命を狙われる理由は決して少なくなかったが、彼女の命を奪ったのは元ヴィンス公国13鬼衆の1人だと言われており、その背景は不明瞭なままである。

この刺客はその後にフィーデル河下流域で始末されたそうだが……

次に遣わされるであろう(おそらく世俗派の)教皇特使が、同様に命を狙われないことを祈るばかりである。

7月1日

クールラント女公ヒルデガルド、男児を出産

先日のヴィンス公妃リエッタ・デューラーに続き、クールラント女公ヒルデガルド・フォーゲルヴァイデが、この日、男児を出産した。

公兄カール、ミンネゼンガー公・その公妹が、未婚である現状……

次代を担うフォーゲルヴァイデ家最初の子が誕生したことになる。

現在はライヒェナウ家に王位を明け渡しているが、以前としてかの家名の力は主力であり、エステルランド王国としては大きな朗報になったと言えよう。

もちろん、国王ノビー1世にも後継、それ以前に結婚が望まれるのだが……?

7月23日

ユリアーナ1世を立てたブレダ王国、エステルランドと一時停戦

絶対的カリスマを持つ覇王ガイリング2世を奉じるブレダ王国は、数々の危機を乗り越え団結したエステルランド連合軍に確実に追い詰められていた。

先の紅蓮大火炎竜の件などもあり、エクセター王国やブリスランドからの積極的支援も断たれていたブレダは、それでもたやすく落ちることなく、空を翔る新兵器まで持ち出して戦い続けた。

両軍の疲労と損害はゆっくりと、確実に広がっていく。

そして、7月中旬に入る頃から、戦場を幾日も続く暴風雨や謎の疫病が襲ったのが大きな決め手となったのであろうか。

エステルランド国王ノビー1世の賢明なる譲歩もあったとされ、この戦争は一時休戦を迎えることとなった。


ここに至るまでに、数々のことが起きた。


まず、ガイリング2世の母・アウドヴェラ大后がブレダに仇なす逆賊として討たれた。

彼女は魔竜ベイレムーヴァと契約しており、先の紅蓮大火焔竜も彼女がもたらしたものであったという。

数々のウワサは飛び交っているが、現状ではコレを各国がその通り受け止める反応を示しているようだ。

裏街道の者やスパイの報告などからそれがまぎれもない真実と確かめられたのか、

あるいは、停戦に伴う国家間のやりとりで取引があったのか。

ただ、旧派正真教教会は、その大后の暴挙を生み出したのはブレダ王国・新派教会に闇があるのだとし、ブレダに対して攻撃的な姿勢を強めている傾向が見られる。


次に、かの覇王ガイリング2世がその姿をくらました。

英雄ガイリング2世にしか出来ぬ戦いをしに弟グユクと共に北へ旅立った、(グユクに関しては戦死と発表されており、ほぼ間違いないとされているのだが)戦場で戦死したがその不滅性を失わせぬために隠蔽されているだけだ、雷帝アーグリフに見初められ生きながらにしてその城に招かれている、アウドヴェラに続いて闇に屈し内部の者に討たれた……

数々の噂が囁かれているが、ブレダ王国の発表はただ「行方不明」である。


最後に、その後継として……かの覇王の娘ユリアーナ1世がブレダ王国女王に立った。

ガイリング2世には跡継ぎがいないとされていたが、数ヶ月前から、王と同じ泥髪を持つ少女がブレダ王宮内にいたことは確認されており、彼が行方不明となる数週間前には、彼女の存在は対外的にも明確に知らされていた。

タイミングの良すぎる奇妙な交代劇に数々の憶測が飛び交うが、確かなことは知られていない。

ただ……新女王ユリアーナ1世が、「金の鷲」所属の錬金術師"魔女"ジリアンと同一人物であったという噂は真実のようである。


この安息は束の間かもしれないが、若い王と女王を頂いた両国の関係は今までにないものとなる可能性も秘めている。

戦乱を生業とする傭兵達、産業や流通を常に見越していかねばならない商人達。

彼らにとって、この新しい流れがどのような影響を及ぼすのか……

賢人達にも、その未来はまだ見通せない。

8月13日

新教皇特使ヴェルヴァロッサ枢機卿、フェルゲンに登城

前教皇の特使であったマレーネ・ジーベル枢機卿がアイセルに栄転してから、しばし。

次の教皇特使として送り込まれたウータ枢機卿は、フェルゲンに辿り着く前に行方不明(死亡)。

そしてこの日、ようやく教皇特使としてフェルゲンに降り立ったのはなんと男性だった。

教皇アンゲリア7世の懐刀とも言われる、この世俗派司祭ヴェルヴァロッサ。

ヴィンス出身の彼は信じ難い速度で教会内の地位を駆け上がった人物である。

半年も無い間に、司祭・司教・助祭枢機卿となったその背景には不透明な部分が多い。

そのために彼に関するスキャンダラスな噂は尽きることがないようだ。

“不在枢機卿”ロルフ・ブラームスの養子、“世俗派筆頭”ロクス・コルネリウスの弱みを握っている、果ては、まだ年若い教皇アンゲリア7世の情夫だ……などというものまで耳にする。

王都フェルゲンに登城したこの日も、彼は見事に揉め事を呼び込んだ。

お陰で、彼に対する人々の評価と視線は実に多種のものが入り混じることとなった。


追記がある。

ハイデルランドにパワー・ハラスメント防止委員会が生まれたのはおそらくこの日、と後世のためにここに記す。

9月3日

バンウッド公アルカート暗殺

エステルランドの南、ワイト族の国家エクセター公国。

この北端に位置し、ヴィンス公国と数々の衝突を繰り返してきた、バンウッド公国。

近年のその政争・戦争で最も活躍していたのが、公国主アルカート・バンウッドである。

しかし、その彼もついにその命脈を絶たれた。

後に分かった情報によれば、下手人は“戯言の”セブン・クロッサス。

裏の世界では知る人ぞ知る無軌道詐欺師だという。

2週間ほど後に、亡命していたエステルランド王国ヴィンス公国内で賞金稼ぎに討たれたらしい。

このセブンという男がヴィンス公国と密接な関係を持っていたという説があり、公国のみならず、エクセター王国もその国境の軍備を強化、真相の究明にあたっているという。

その結果がどうあれ……両国間の関係はより複雑なものになる可能性があるだろう。

バンウッド公国は、すぐさま公妃シェルキナを公国主として立て、事態の早期収拾を図っている。

11月5日

ケルファーレン公愛妾殺害事件

現ケルファーレン公カール・パーデルボルンはかなりの女好きと言われている。

その噂を決定付けていた事実が、公として立つ時点で「愛妾」を連れていたことである。

愛妾の名はマルギット・ルーンケン。

幼い頃から父の経営する娼館で娼婦見習いとして働いていたという情報もある。

周囲にその存在を認知された時点で15歳。

そして、その享年は16歳。


ケルファーレン公国宮廷所在地カルデンブルクの王城で、彼女は殺害された。

下手人は正妃ユリアーネ付の男性医師ロマン・ブロイル。

彼は異常性愛の持ち主であり、監禁・婦女暴行など数々の前科を隠蔽していたらしい。


この日のカルデンブルクで、彼に命を狙われたのは少なくとも3人の女性…旧派真教教会からの査察官エッダ、正妃ユリアーネ、愛妾マルギット。

助かったのは、マルギットが身を挺して庇った……ユリアーネただ1人。

その後、医師は城外に逃亡する前に討たれた。

ちなみに、マルギットはカールの子を妊娠していたとされ、その事実がこの事件をより痛烈なものとして彩ることとなった――

西方暦紀元1067年

2月11日

ブリスランド大使ジェフリィ・ベッカード怪死

サロンで名をはせる伝説的大使の1人、ジェフリィ・ベッカード。

ブリスランドからの密偵であることも公然の秘密とされてきた彼が、フェルゲン街路で怪死していた。

自らの首を両手で縊るように硬直した謎の遺体は、多くの謎を呼んだ。

しかし、ブリスランドからの使者とフェルゲン学芸院による合同調査の結果、下手人がすでに別件で処罰されていることが発覚し、事態は収拾の方向へと進んでいる。(彼の正確な死の状況は、公には発表されていない)

密偵であるとされる彼が何か大きな情報を掴んだことで暗殺された、という噂も囁かれるが、ブリスランドの側がそれを「根拠なし」として否定している。

2月14日

教皇アンゲリア7世「大粛清」に着手、アンゼル1世神聖帝国皇帝へ

昨今のエステルランド王国の動向に問題を提起し続けていた旧派真教教会が、大きく動いた。

この日、ペネレイアで新任教皇による公開儀礼「霊奉の儀」が行われた。これは新教皇擁立1年前後で必ず行われている儀式なのだが、ここで大胆極まりない教皇暗殺が企てられた。

身を挺した世俗派司祭数名が命を落とすこととなったが、教皇は無事守られた。

この際、同様に教皇をかばった司教枢機卿ロクス・コルネリウスは手傷を負ったものの、教皇と共に退場。暗殺者は教皇を追った先で取り押さえられ、絶命した。

この暗殺者が「聖グラディウシア騎士団」に所属していることは、後に発表される。

彼の行為が単独のものかは不明だが、神の代行者である教皇に刃を振り上げることはあってはならないはず。

グラデイウシア騎士団の実在に対する言及と共に、追求が始まることは想像に難くない。


一方、教皇アンゲリア7世は唐突にロクス・コルネリウスを断罪、斬首する。

詳しい理由は一般に対しては公開されていないが、「人々の光となるべき教会の内へ俗にまみれた不和と不審を持ち込み、自らの煩悩のために教会の権威を地に堕とした」という宣言をしている。世俗派筆頭とされる彼に似合いの天罰だと噂する者もいるようだ。

この日を境に教皇アンゲリア7世は「大粛清」と呼ばれる教会の構造改革を開始。

真教教会から異端と俗を次々と排し「教会は穢れなき光たれ」という強い原理主義を主張する。


また、この日…前エステルランド王国国王ヘルマンの第一王子アンセルの生存が同時に発表された。

暗殺者騒ぎの数時間後に続行された教皇の傍らに現れたその人物は、半身が機械化されていたが、確かにアンセル・フォーゲルヴァイデその人であったという。

この時、教皇アンゲリア7世から発表された内容は、要約すると以下のようなものであった。


第一王子アンセルは、現ノビー1世と繋がる暗殺者によって殺害された。

しかし、実際には死亡しておらず、バルドブルク城伯ギュスターヴ・フォーゲルヴァイデ2世によって保護。

だが、半身を機械化しなければならないほどの重症であった。

暗殺に成功したと考えていたノビー派(この時点でのノビー本人の干渉度は不明)は、この間に事態を進展。

アンセルを病死とし、巧妙な偽の死体を提出、国葬とした。

病死であるにもかかわらず、屋外での目撃者不明の死亡がこれを強く裏付けるとする。

アンセルは機械化後、ギュスターヴの下にいたロタール・デューラーの立場を借り、表舞台へと復帰。

現リエッタ・デューラーに真実を打ち明けることで協力を要請し、ヴィンス公となった。

そんな彼は、アーグリフの加護を受けたと言われるブレダの魔女王にノビー1世が篭絡されたことを契機に、ハイデルランドが徐々に闇に蝕まれてきている事実を強く痛感する。

意を決したアンセルは、真教教会と共に世界を正しき形へと取り戻す不退転の覚悟を示した。


教皇アンゲリア7世は彼の手をとり、神聖バルヴィエステ帝国皇帝の地位を与えることを宣言した。

これによって、ヴィンス公国はエステルランド王国から離反、消滅。

ダーフェルシュタインを首都とする新しい神聖バルヴィエステ帝国が誕生することとなった。

一度は去ったとされる戦乱の陰が、再びハイデルランドを覆おうとしていた――


その他の重要事実

シナリオ作成等、今後の展開に関わりそうな歴史以外の事実

  • 森人“ディアスポラ”アルダは、1064年の時点で殺戮者から脱し、聖痕者として現在ヴィンス公国。
  • 秘密結社セプテントリオン、1064年の時点で内部に虚の元力の使い手を持たない。庇護しようと捜索中。
  • 伝説の白鳥人スヴァンヒルデ、1063年の時点でアルカナひとつという特殊な状態で存命(詳細は空飛ぶハイエナ氏)。
  • 河人の「スマラクト」は現在3つが外の世界で確認されている(紛失されたとされる3つを数に入れなければ、残り1つ)。
  • 錬金術師フレケンシュタイン、闇組織「黒い幽霊」を私目的で利用したため反感を買って追放。後に聖痕者に撃たれて死亡。
  • 天空城伯カエラム、一度はザイドリッツ号と共に地に落ちたが、1064年8月末に新たな天空城砦で再浮上。
  • ヒルデガルドの心には、融合する形でとある少女(特殊因果律『いのちのおくすり』参照)も存在する。
  • ヘルマン1世の下で暗躍していた暗殺者フォスター、ケルファーレン公国内で死亡。
  • 救世母マーテルの実の妹は3人。上からメタノイア(魔神、真の死)、フォーティシア(転生。現在PC)、ユーグレナ(闇の聖母オーレリア)。
  • 魔神クックラカン、魔神ハルバンナの裏切り(?)と聖痕者の手によって、真の死を与えられる。
  • ブレダ王国内において、占い師エロイーズが“小覇王”リーズによって討たれる。
  • 元ヴィンス公国13鬼衆のうち7名までの死亡が確認されている。
  • 「禿鷲の巣」ギルドマスターであるエーリッヒ・ヘリクセンの祖母は永世者(PC)である。
  • 旧派真教教会がバックアップする、フリーダー・パーデルボルンは、教会側の知らぬ間に殺害され、他者と入れ替わっていた。
  • 高名なる自由騎士エメラルド卿と、ミンネゼンガー貴族ドラッヘン・オルベール・フェーレンバッハは同一人物。
  • 英雄の家系で知られるトゥクルース氏族が闇の祝福を受けているとの話が、ハイデルランド中に広まり始める。
  • カール・ブリッツの妻、ティルラ・ブリッツは白鳥人。死亡とされるが、現在、息子グレゴール・ブリッツの屋敷にメイドとして潜伏。
  • フェリックス・クリューガーの妻、ティアナ・クリューガーは白鳥人であり、ティルラ・ブリッツの別人格。ただし、人格として消滅。
  • どうやら「太陽を∵爆破∵」すると、異常性皆既日食が生じるらしい。太陽がアーに常備化されてるのか、アクト後には復帰するようだ。
  • マリオン・アウルム・ダグラス2世、死亡。《白き鳥の印》の効果でマリオン・エイリアル・ダグラス3世に転生するが、アーグリフから離反。
  • 魔神ボリヴァドゥスの愛剣「尊厳なき死」が、マリオンの所業により魔神アーグリフの手にわたる。
  • ブルーダーシャフト大兄エリック、盲目的な復讐劇と決別。裏の世界から確かなネットワークで、ケルファーレン公カールを中心としてバックアップを図る。
  • 魔神イルルニィ、聖痕者の姦計にかかり誘い出され、奇跡の力によって自害。真の死を与えられる。
  • 表の歴史と違い、ヒルデガルドの双子は別に存在する。紅公ガイを名乗っていた仮面の人物アンネローザがそうであり、現在では真の死の印を得て魔神化。いまだ暗躍中。
  • アンネローザ以前のガイリング・パーデルボルン、魔神の支配から逃れた後に、死亡。
  • ブレダ王国太后アウドヴェラ死亡。公式発表はいまだなされていない。
  • ザイドリッツ号と共に地に落ちたザイドリッツ号乗員達は、ザイドリッツ2で再浮上するが、1066年6月に撃墜され再度墜落。
  • 魔術王ダッハの秘法の1つ「太陽と月の戦車」、大破。
  • 元ヴィンス公国13鬼衆のうち8名までの死亡が確認されている。
  • 魔神メローデイア・魔神ボリヴァドゥス、千年来の大敗北を喫する(1066年7月)が、真の死は受けていないので奈落にて再生中。
  • 7つの大罪の印のうち《嫉妬の印》《貪欲の印》《背信の印》《絶望の印》《憤怒の印》《肉欲の印》が原蛇派の手に落ちたが、再度解放される。
  • 7つの大罪の印のうち《欺瞞の印》は、とある真実の書に潜伏中。頃合に移動し、姿をくらます可能性アリ。
  • 魔神アーグリフの居城ヴェルンフラム城に大打撃。白鳥人の数も多く減じたが、復帰中。
  • ブレダの新国王ユリアーナ1世には、聖痕者であるクレアータ影武者ジークリンデが存在する。
  • グラディウシア騎士団が2つに分裂、一方のトップと思われるサイモン・ブラックが死亡。他方のトップはマレーネ・ジーベル。
  • ヴィンス公妃リエッタ・デューラー、殺戮者化の後、死亡。しかし、公国には影武者が配置されている。
  • ヴィンス公ロタール・デューラー、死亡。以前から配置されていた影武者に「雷の指輪」が正式に譲渡。この影武者がアンゼル1世となる。
  • 教皇アンゲリア7世、過去の想い人が失われた背景、教会の世俗支配の黒幕にはマレーネ・ジーベルがいると個人的に断定。

文責:冷凍ゾンビ / 編集:えめどん
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